全ては黄金色の昼下がり。赤いウサギを追って・・・。

ザアーザアーと降り続く雨音を聞きながら常宿での巣ごもり。忙しなさに感けて一向に読み進まない小説の読破には最適な時期。たまには幼心に戻って児童文学も良いのでは。そんなことを思いながら倶楽部ハウスでお茶をいただく昼下がり。今日も天井の梁から赤いウサギが「ようこそ」と声をかけてくれるよう。ウサギが登場する児童文学・・・。



ルイス・キャロルの名作、「不思議の国のアリス」は世界中で演劇やオペラ、バレエなど様々な舞台化、そしてディズニーの映画にもなりましたが、ディズニー映画の中で「All in the golden afternoon」という曲がアリスと花たちと仲良くなるシーンで歌われていますね。とても楽しい歌ですが、もともとは「不思議の国のアリス」の巻頭に献呈詩として記された詩の題名で、歌の歌詞とは随分違うようです。



全てはあの金色の午後の出来事だった。

1862年7月4日の午後のこと、3人の姉妹と共にオックスフォードを流れるアイシス川でボート遊びをしているときに、姉妹のうちの次女である「アリス」に面白いお話をして欲しいとせがまれて即興で創作したのが「ウサギの穴に落ちた女の子アリスの冒険物語」なのだそう。



なぜか時間を気にしながら急いでいる白うさぎを追いかけて、不思議の国に迷い込んで行くアリスのストーリーは、とりとめのない物語で突拍子もないことが次々に起こります。この理解しがたいようなお話は、作者が小さい子どもにせがまれて即興で話して聞かせた物語だったというのも頷けます。



それにしてもルイス・キャロルの想像力には感心。そう思うのは私だけでしょうか。「ルイス・キャロル」とはペンネームで、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドドソンという数学者なのだそう。意外ですね。てっきり女性かと思っていたら男性。小さな子どものココロを引き付けるような奇想天外なお話が即興で出てくるドドソンさんて、彼自身も子どものようなココロの持ち主だったのではないかしら?



ペンネームの決め方もセンスあると思いませんか。本名のチャールズ・ラトウィッジ「Charles Lutwidge」をラテン語にすると「Carolus Ludovicus」となり、英語の名前に読み替えると「Ludovicus Carolus」ルイス・キャロル。言葉の遊びにも長けていたとアリスの物語を読み進むと分かってきます。 ルイス・キャロルが散りばめた、言葉遊びや童謡、ばかばかしい詩の背景を知ると大人が読んでも楽しいワンダーランド。



花吹雪の敷地内にも森にもウサギが。べつだん急いでいる風でもない白いウサギや少し物思いにふけっているような赤いウサギ。ちょっと追いかけてみませんか?どんな物語になるのかは主人公の貴女しだい。全てはこれから始まる金色の午後の出来事なのです。




真夏の夜の夢「パルフェ・タムール」

一年で最も昼間が長い日、そして最も夜が短い夏至。太陽は一番高く、エネルギーが満ち溢れていると考えられ、各国で「夏至祭」が行われる。 日本では、梅雨真っ盛り。雨が続いているので夏の日差しが待ち遠しい、そして夏本番に向けて暑さが増していく時期でもありますね。



4000坪の森に囲まれた別荘宿の窓から眺める緑は潤いを増して益々パワーが感じられ、滞在するだけで自然の浄化作用やセラピー効果があるような気が。深呼吸すれば、すっと森の空気が体に染み込んでいく。


(日本の色棟・赤のお部屋から)


シェイクスピアの喜劇「A Midsummer Night’s Dream」は夏至の前夜に起こった森の妖精と貴族と職人たちのドタバタ騒ぎ。初演は1594年から1596年の間と言われ、貴族の結婚式のために書かれたとも考えられているようです。
欧州では、夏至の日は妖精の力が強まり森の中でお祭りが行われると考えられていたそうで、戯曲の背景には様々な風習が盛り込まれていますね。
劇中にはいたずらな妖精パックや妖精王オーベロン、妖精女王ティアーニアなどが登場。人間の若い男女は恋愛問題を抱えて森で落ち合う約束をする・・・。



妖精の王オーベロンが花の汁から作った媚薬。これは「ニオイすみれ」のエキス。目覚めた時に初めて見た相手を好きになるという効果があるもの。妖精パックの「うっかり」が物語の展開を思わぬ方向へ向かわせる。逆転と交差が構成するドラマはたった一夜の森の中の出来事。まさに夢の中なのですね。



別荘宿で過ごす今宵にぴったりの森のカクテル「パルフェ・タムール」を食前酒にしてみよう。世界でも珍しいこのリキュールは「ニオイスミレ」の色や香りを抽出して作られている香り高いお酒で「飲む香水」とも賞されるとか。18世紀半ばにフランス北東部のロレーヌ地方で誕生してから、たちまち人気を博したのだそう。



今夜、うさぎの森でも妖精たちが面白おかしいドラマを繰り広げているかも知れない。そんな思いを馳せながら、旬のお料理に箸を進めていこう。


初夏の宴は涼しげなお料理がいっぱい。








今しがた外で拍子木の音が聞こえた。一年で一番短い夜の始まりは、不思議で美しい瑠璃紺の空。眠りにつくにはまだ早いから雨音を聞きながら露天の湯にでも浸かろうか。


翠雨ふる別荘宿で雨やどり

梅雨の長雨と言うけれど、雨の降る様を表す言葉のなんと多いことか。
しとしと
ぽつぽつ
ザアザア
しょぼしょぼ
パラパラ
短い言葉で表現するその様を容易に想像できる。雨の降る様だけでなく、雨の呼び名は400余もあるのだとか。

春に降る「菜種梅雨」「桃花の雨」「小糠雨」
今の季節は「五月雨」「梅雨」「緑雨」
夏の夕立「洗車雨」
秋の「霧雨」「秋黴雨」「秋霖」
冬の冷たい雨は「北時雨」「山茶花時雨」「氷雨」
弱く降る「小雨」「涙雨」あげたらきりがないほど。
微妙な違いを豊かに表現する日本語は、改めて美しいと思う。



霖に森の緑は潤いをましているよう。
リズミカルに葉を叩くパーカッションに今日はどんなメロディを合わせてゆこうか、、、。豊かな森の自然を眺めながらのひととき。



円形に張り出したサンルームのような談話室があるこの部屋は603長七うさぎ。



この部屋は、「実家の両親は東京に、娘たちは東海に」というような家族にも愛用されているそう。
団欒のできる談話室のほかに和室が二つ。



それぞれの家族がリラックスできるような間取りは、さり気ない気配り。



談話室はガラス張りの植物園のようでもあり、
眺めながら身体を左右に傾けてみると、縦に模られた窓のひとつひとつがそれぞれ違う絵のようにも見える。



どこを切り取っても 持って帰りたいほど素敵な1枚。

花吹雪の各部屋には湯茶の準備がしてある。
ホテルなどにあるティパックとは異なり、上質の緑茶の茶葉が桜皮細工の茶筒に入っている。



泊まり客でも気づかないかも知れないおもてなし。

このお茶を美味しく頂くコツ、私流。
部屋の水道からは、天城山系の活水が出るのでそのまま、備え付けのポットで沸かす。



上質の緑茶は、80度程度に冷まして淹れるとその旨味を味わえる。
まず、急須に湯を注ぐ。



その湯を湯飲みに注ぐ。



そうすると、沸騰した湯は80度程度に冷める。
急須の茶こし部分に茶葉を入れ、



湯飲みの湯を1杯ずつ急須に戻し入れる。
このままだと、湯が茶こしを通るだけなので薄い。



茶こしを急須から外して、湯飲みの上に持ち、茶葉の上から急須のお茶を湯飲みに少しずつ順番に均等になるように注ぐ。美しい緑の茶を淹れることができる。


なんとも豊かな味わいだろうか。
日常の忙しさのなかでは、緑茶を急須で淹れることも少なくなったのでは。と思う。

お茶うけとして
チェックインの時に、伽羅蕗の佃煮か和三盆を購入しておくことをお勧めしたい。


梅雨の長雨の何もしたくない時に、こうして何もしないことの贅沢さを味わうのもいい。

七月ばかりに、風のいたう吹きて、雨などさわがしき日、
おほかたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、
汗の香少しかかへたる綿衣の薄きをいとよく引き着て、
昼寝したるこそ、をかしけれ。
                  枕草子 清少納言

雨の日の楽しみ方は平安時代から変わらないのだろうと思いながら、畳の上にごろん。

相方は読書と決め込んだよう。
読もう読もうと思いながら、一向に進まない小説とか、読み返してみたいと思っていたあの本。思いつくままカバンに放り込んで来たのだろう。



お茶のお供にお勧めしたい一品
伽羅蕗・山ごぼう・まい茸



和三盆



太古の海底岩「伊豆石」の湯殿で身体の芯から温まる
梅雨寒に意外と身体は冷えている。足の先が冷たい。湿気が多く汗をかきにくいこの季節はなんとなく不調になりやすいという。
うさぎ棟は地下に貸切風呂があるのが嬉しい。雨でも濡れずに24時間温泉を楽しむことができる。檜と伊豆石の半露天風呂は開放感があって、地下とは思えないほど。森から渡る風が薫る。



ヒュレヒュレイセポの湯サンパヤテレケの湯。ユニークな名前と思いきや、どちらもアイヌ語だそう。
ヒュレヒュレイセポは「赤いうさぎ」の意。サンパヤテレケは「物語を歌に乗せて語る神謡」の意。雨音をBGMに赤いうさぎの神謡はどんな物語になるのか、、、 などと想像しながら湯に浸かる。
じわっとカラダを温めてくれる ミネラル豊かな掛け流しの湯。湯船は伊豆石。伊豆石は太古の時代に火山活動が活発になり海底に火山灰や溶岩が堆積したもので、フィリピンプレートにより地殻変動が起こって伊豆半島が本州に衝突したときの副産物と言われている。太古の海底ミネラルが含まれていることや遠赤外線効果で湯冷めしないのだとか。丈夫な伊豆石は徳川家康の城、「駿府城の石垣」にもなっている。
湯船に浸かりながら、膝の裏をそっと撫で足のむくみをケア。疲れも冷えも湯に溶けていく様なここちよさ。

雨雫が萌黄色の葉に揺れる、雨間の森。
一時の梅雨晴れ。クラッシュゼリーがきらめく涼やかな和菓子のような森は、青時雨。雨上がりの清々しさは雨無くしては得られない別世界。



紫陽花と見間違う甘茶の花。趣きが品良くやさしげ。





甘茶の若葉を蒸して揉んだものは
独特の甘みがあり、それは砂糖の1000倍の甘さがあるとのこと。
花吹雪のチェックインの前にウェルカムティとして淹れてくれる「森のお茶」にもブレンドされている。



6月のお料理は、初夏を感じる涼しげな献立。



夏野菜の炊き合わせ。



この時期だけの希少な地魚あぶらぼうずの西京焼き。
初夏の冷酒と一緒にいただく。



梅雨時だからこそ、ここで過ごしたい。そう思う常宿の滞在。

夏の日本酒ー日高見「弥助」

日高見―(純米吟醸 日本酒度+4)

創業文久元年(1861年)、港町石巻の銘蔵平考酒造が醸す芳醇辛口純米吟醸。
和食界において、辛口と言えば「日高見」とさえ言われる銘柄です。
中でもこの「弥助」は、緻密に構築されたバランス良い酒質を持ち、日本食との相性が抜群です。
吟醸酒ながら、華やか過ぎない穏やかな含み香は、素材の味わいを邪魔することなく寄り添い引き立てます。

一合¥1000(税別)