1月の中旬には河津桜の一番花が咲く伊豆高原。どこより早い桜の開花は「春は伊豆から」というキャッチフレーズが似合う。河津桜の開花は実のところ、河津より伊豆高原の方が早い。大寒波のニュースの中でささやかな春の知らせをお届けしたい。
しっとりと潤いを持った春の雨が草木の芽吹きを呼び、春を告げる鳥の声が森にこだまする。常緑広葉樹の多い伊豆高原は雨に濡れた深緑の森。芽吹きを待つ静けさの中に耳をすませる。濃い紅色の河津桜はひときわ映えている。
河津桜にはメジロが飛来する。お目当ては花の蜜。メジロは雀ほどの小さな鳥だが、背中は黄身がかった草木色をしていて腹は白く、目の周りに白い縁取りがある。人馴れしているのか、警戒もせず忙しく桜の木の枝から枝に移っていく。 メジロは秋から冬にかけて群れをなして行動し、押し合いへし合いしながら木に停まるため「目白押し」という言葉の語源になったと言われている。
メジロは濃い桃色の河津桜とコントラストが抜群で、晴れた日の青い空に映える。桜を撮影する時に、是非、メジロも一緒に写真に納めてはいかがか。朝9時くらいから11時くらいまで、間をおいて何度もやってくる。
メジロは花の蜜が好きで、その細く尖った嘴を差し込んで蜜を吸う。河津桜や大寒桜、染井吉野などの一重の花を咲かせる花が好みだそうで、口の周りを花粉でいっぱいにして蜜だけを上手に吸っていく。八重桜などの花びらが多いものは蜜が少なくあまり好みでないそうだ。
メジロは鶯とよく間違えられているという。うぐいす色は、くすんだ黄緑色のことを指すが、実際の鶯の身体は黄緑色とはほど遠く、どちらかというと茶色い。黄緑がかった黒くくすんだ茶色のことを「鶯茶」という。
うぐいす餅は、青大豆のきな粉がまぶしてあって、綺麗な若緑色をしている。そのせいか、鶯は緑色なのかと勘違いしてしまう。それで、春先に黄緑色の小さな鳥が桜や梅の木で蜜を吸っていると、鶯と思ってしまうのだろうか。 鶯は美しい声で「ホーホケキョ」と鳴き、その声が森に木霊する。しかしその姿はなかなか見ることができない。とても警戒心が強く藪の中に潜んでいるからだ。鶯の主食は昆虫。メジロは「チチッ、チッ」と鳴き、警戒心はあまりなく、人がいても気にせず近くの小枝まで姿を見せる。こうして比べてみるとメジロと鶯はずいぶん違うことになる。
メジロに負けず劣らず桜の蜜を好むのはヒヨドリ。メジロが蜜を吸っていると追い出して餌場を占領してしまうほどヒヨドリも甘党だ。大きなヒヨドリに追いやられても、怖いもの知らずのメジロはまたやってきて小さな身体で花から花へと飛び回る。桜の蜜は甘く、鳥たちに人気のようだ。ヒヨドリもメジロも花の蜜だけを上手に舐め取っていく。
桜は花びらが散っていく姿も美しく、木の下にピンクの絨毯を敷き詰める。しかし時折、花ごとちぎられて地面に落ちているのを見かける。いったい誰の仕業かと思いきや、なんと犯人はスズメだそうだ。嘴が太く短いので、メジロやヒヨドリのようにお行儀よく食べられないということらしい。
花吹雪は倶楽部ハウスの入り口にもうさぎの森にも桜の木があり、早咲きの桜も順に蕾を綻ばせていく。これから5月まで桜が楽しめる。