「あんみつ」に誘われて、くぐる暖簾。雲上亭と緑陰亭。

「あんみつ」このひらがな4文字、なんとも魅力的ではないか。ついつい惹かれてしまう。つるんとした喉越しと優しい甘さ。素通りはできない。


和菓子のルーツ

日本の四季と和菓子はとても密接な関係で、夏になれば涼やかな水を、春には芽吹きや花、秋葉には木の実や紅葉など、その季節を想像させるものが多い。日本古来の文化や習慣がお菓子と共に親しまれている。



日本の伝統的な菓子。和菓子のルーツを探ってみるとその歴史は古代に遡る。日本人は米、粟、稗などの穀物が主食であった。食事と食事の間に、お腹が空くと野山の果物や木の実=種子を食べていたそうで、果物の「果」と種子の「子」から菓子と言われるようになったという説もある。初めは生で食べていた木の実や種を、後に乾燥させたり、木の実の粉で粥や団子を作ったりするようになっていったという。



蜜豆は夏の季語

和菓子の代表格とも言える「みつまめ」は江戸時代末期から庶民の間で親しまれていると言われており、始まりは赤えんどうに蜜をかけて食べていた子どものお菓子「蜜豆」で、夏の風物詩であった。今では賽の目に切った寒天や白玉、フルーツ、アイスクリームなどを乗せた和風パフェとも言える豪華なものまである。



160年以上も愛されてきた和菓子「みつまめ」と「あんみつ」の違いは蜜豆に餡子を入れたかいれないかの違いだけだそうだ。餡にも「つぶあん」「こしあん」「しろあん」などお店によって様々。


花吹雪の料理屋菓子


「コース料理のデザートをもっと多くの人に食べてもらいたい」そんな料理長の思いが実現して花吹雪の「雲上亭」と「緑陰亭」が、昼間の時間に甘味処として利用できるようになった。月見門から入ると野点傘が目に入る。



緑に囲まれたなんと贅沢なお休み処か。木陰で一息つくようにしばし深緑に癒され、甘味を味わいたい。



花吹雪の「あんみつ」には自家製和三盆わらび餅入り。小豆を練り込んであるのでその食感も楽しみたい。


全国でも優良の天草が採れる伊豆。天草は磯に近く波の荒いところで育つものがよしとされ、海女が潜って採るものが最良とされるそう。 つるっと冷たい寒天は舌触りも良く、しっかりとしている。西表の黒蜜がからんでコクのある、それでいてさらっとした甘さが後を引く。


嶺岡豆腐


名物の嶺岡豆腐がコース料理でなくても楽しめるとはファンにとっては本当に嬉しい。「嶺岡」とは地名。千葉県南部、房総半島にある丘陵地、嶺岡連峰の山々を言う。この嶺岡地域で、将軍徳川吉宗公の名でインドから伝来した白牛が飼育されたのが日本の酪農の始まりとされる。その後、明治時代に千葉県が嶺岡乳牛試験場として牧場を運営することになったそう。「嶺岡豆腐」は江戸時代、徳川吉宗が鷹狩で嶺岡を訪れた際に牛乳と葛で作った「豆腐」を出したところ好評だったというのが発祥のようである。


「菓匠さんとは違い、料理屋の菓子です」と謙遜する料理長。懐石料理を出す食事処のスイーツは大人好みの上品な甘さ。コース料理の〆に出すデザートを一品の甘味メニューとして仕上げてある。


メニュー
クリームあんみつセット  1,320円
和三盆わらび餅セット    880円
黒蜜嶺岡豆腐セット     880円
ところ天(夏季限定)    880円
*お飲み物は抹茶、緑茶、ほうじ茶、コーヒーからお選びいただけます。

もちろん珈琲だけでも利用できるので、気軽に立ち寄りたい。



甘味処で涼んだ後、掛け流し湯で疲れも流そう。



今夜は歌人の名前がついた風姿棟の小和室、西行夢桜。大きく開いた窓からは深い森が見える。幾重にも折り重なるような緑の濃淡にため息をつく。


お楽しみの夕餉。今日の献立は涼やかな初夏のお料理。



先付:甘唐と汲み湯葉の摺流し、干し椎茸だしの水晶掛け、いちじく、花穂



八寸:うなぎと紫蘇の朴葉寿司、白ずいきの水晶寄せ
鮑の味噌炊き、新丸十の蜜煮
蛤と白瓜の黄身酢掛け、国産合鴨の有馬煮



御造:金目鯛の焼霜造り、大門ハタ、イサキ



煮物:鶏ガラ煮込みの鱶鰭、丸茄子の揚げ煮、冬瓜



中猪口:青梅と天城山葵のグラニテ



焼物:天城の山葵田で育ったあまごの炭火焼き



犬枇杷の葉に隠れて出された天城の山葵田で育った姫天魚。
白身は上品で身が美しく、まさに山葵田育ちの清流の女王。



御飯:夏牛蒡と静岡牛「葵」の炊き込み
留椀:冷製呉汁
香の物:胡瓜の黒文字漬け、茗荷の甘酢漬け、汐吹昆布



料理屋菓子:黒胡麻葛
黒蜜ときな粉がやさしい甘さにコクを添えている。



梅雨の花吹雪は格別。ここちよく弾む雨音が気持ちを落ち着かせてくれる。自然音は1/fのゆらぎと言われ、人をリラックスさせる効果があるそう。
部屋の窓どこからも見える深い森の草木の葉一枚一枚は、雨露に濡れて輝いている。






たっぷりと水を含んだ森にパワーをもらえる旅。