着るほどに馴染む和の装い、作務衣

普段の生活で作務衣を着ることはないけれど、宿で過ごすにはとても都合がいい。旅館やホテルには部屋着や寝巻きとして浴衣やナイトガウンを用意しているところもあるけれど、部屋着で部屋の外へはなかなか出られないもの。浴衣もいいけれど、襟元や裾がはだけてしまいやすいので、その分気を使う。動きやすくて、はだける心配のない作務衣に注目してみたい。

作務衣のルーツは僧侶の日常着

禅寺では清掃や薪割りなども修行のひとつ。締め付けのない作務衣は日常着として用いられてきた。その歴史は以外と浅く、昭和40年代に永平寺が最初であるという説も。現在のような形になるまでは、着物の上に羽織る「上着」と、「もんぺ」という姿だったそう。作務衣はその着やすさから、最近では普段着などに愛用する人も見かけるようになった。

作務衣と甚平と浴衣の違い

和服の中でも日常着に気楽に着用できる「作務衣」、「甚平」、「浴衣」。似て非なるその違いを調べてみると。



甚平 

戦国時代の「陣羽織」が起源とされ、戦の時に武将が防寒着として着用していた上着で、通常は袖なしの羽織のこと。江戸時代末期に庶民の夏の部屋着(寝巻き)として用いられた。浴衣より丈が短く、袖には袂がない。袖は身頃にタコ糸などで編みつけるなど風通しが良く夏用の部屋着として工夫がされている。昭和40年くらいまでは膝丈までの丈の長い着物だけだったが、その後、更に丈が短くなり、揃いのハーフパンツを合わせて着るスタイルとなったと言う。



浴衣 

浴衣の起源は平安時代。バスローブのように湯上がりに着用していた。その後、江戸時代になって庶民の部屋着や寝巻きとして愛用されて続け、現代では夏のお祭りやおしゃれ着としても着られるようになった。和装の中ではとてもカジュアルな部類で足袋は履かない。温泉街での浴衣姿は風情もあり、日本の温泉文化でもある。浴衣には下駄を合わせて、そぞろ歩きを楽しみたい。

ベッドやソファでは味わえない心地よさ、畳での昼寝

子どもの頃、祖母の田舎で過ごした夏休み。遊び疲れた夏の夕方はタオルをお腹に掛けて畳の上でゴロンと昼寝をしたもの。大人になってからなかなかチャンスがないけれど、緑陰の常宿ではそれが至福の時。い草の香りに癒されながらの昼寝には「作務衣」がちょうどいい感じ。目が覚めたら、そのまま掛け流しの湯へ行くも良し。クラブハウスへ行くも良し。


個性が光る作務衣の着こなし

花吹雪では、スタッフのユニフォームも作務衣。よく見ると、上着の柄も、袴の色もそれぞれ。聞くと、各自好きな柄を仕立てたり、自分の着物を仕立て直したりして、袴の色と組み合わせているそう。車で通勤するスタッフは自宅から作務衣姿で出勤するというから、花吹雪のスタッフにとって作務衣はすっかり個人の日常に溶け込んでいる。



とても動きやすく、物を取ったり、しゃがんだりして作業する時にも気兼ねがないのだとか。作務衣をユニフォームにしたのは開業当時40年前からだそうで、今でこそ全国各地の旅館などで見られるユニフォームだけれど、花吹雪が最初。「真似していいですか」と何軒も言われたと伺った。


森を吹き抜ける涼風のような心地よいスタッフの対応には、海外からのお客様も心が和むのではないかしら。「良く一緒に記念写真を撮ってほしいと頼まれる」と少し恥ずかしそうに答えたくれた。


普段着はもちろん、くつろぎ着にも、お出かけ着としても

特に海外からのお客様に人気のお土産が「作務衣」。上下きちんと着るというよりも、上着のように羽織って行かれることが多く、男性には藍染が、女性には花柄が人気。中には上下ビシッと決めて「これから東京の銀座へ散策に行く」と着られた方もいらしたのだとか。それはちょっと勇気がいりそう。 季節によって様々な素材を楽しんだり、色足袋や巻物でアクセントを自由につけられる作務衣は気軽な和のお洒落として益々人気が出そうな気配。